令和7年(2022年)に高校教科情報がセンター試験科目に追加されるということで、インフラエンジニアが問題の解説をしてみました。ただし、解説はざっくりと技術を説明したものになっているため、厳密には例外などが存在する場合があります。
インフラエンジニアとして普段は働いていますが、教科「情報」の教員免許(高等学校教諭一種免許状(情報))は持っています。そのため生徒向けというよりは教師目線の解説になってしまっているかもしれません。
数回に渡り、問題に出てくるキーワードなども解説したいと思います。もし、一度自分の力で解いてみたいという方はこちらに問題が公表されていますので、ご確認ください。
第一問の出題範囲
今回は第一問 問1を取り上げようと思います。第一問の出題範囲は高等学校学習指導要領「情報Ⅰ」から『①情報社会の問題解決』『②コミュニケーションと情報デザイン』『③情報通信ネットワークとデータの活用』となっています。その中で今回取り上げる「問1」は①が出題範囲のようですね。
『①情報社会の問題解決』の内、問題出題範囲となっている内容は学習指導要領によると下記の部分のようです。
情報と情報技術を活用した問題の発見・解決の方法に着目し,情報社会の問題を発
高等学校学習指導要領(平成30年)第2章 共通教科情報科の各科目 第1節情報Ⅰ 内容とその取扱い 情報社会の問題解決より引用
見・解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 次のような知識及び技能を身に付けること。
(ア)情報やメディアの特性を踏まえ,情報と情報技術を活用して問題を発見・解決
する方法を身に付けること。
(イ) 情報に関する法規や制度,情報セキュリティの重要性,情報社会における個人
の責任及び情報モラルについて理解すること。
(ウ) 情報技術が人や社会に果たす役割と及ぼす影響について理解すること。
イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。
(ア)目的や状況に応じて,情報と情報技術を適切かつ効果的に活用して問題を発見・
解決する方法について考えること。
(イ) 情報に関する法規や制度及びマナーの意義,情報社会において個人の果たす役
割や責任,情報モラルなどについて,それらの背景を科学的に捉え,考察するこ
と。
(ウ) 情報と情報技術の適切かつ効果的な活用と望ましい情報社会の構築について考
察すること。
問題としては、「情報技術が社会に与える影響について理解しているか」「情報技術を効果的に利活用するにはどうしたらよいか理解しているか」を問いたい問題のようです。
それでは早速、問題を見てみます。
第一問 問1 問題


第一問 問1 回答
空欄に入る回答は下記の通りです。(アとイは順不同)
- ア…2(データを送るためのパケットが途中で欠落しても再送)
- イ…3(回線を占有しないで送信元や宛先の異なるパケットを混在させて送出)
- ウ…3(世代の違い)
- エ…3(サーバなどの機器を自ら設置する必要がない)
第一問 問1 ア・イ 解説
こちらの問題は、「固定電話回線とインターネット回線の特徴」「通信の仕組み」を理解しているかを確認する問題となっています。
解答の説明
まずは、この問題で取り上げている固定電話回線とインターネット回線のイメージの違いを見てみましょう。

この問題で取り上げられている「回線交換方式」は、通話中に回線を占有する方式であるため、電話会社の所有する回線数を超えて、電話を掛けることはできません。そのため、災害時など多くの人が電話を利用する環境では、電話は繋がりにくくなってしまいます。
一方、インターネット回線はデータを小包(パケット)にして送信する方式であり、回線を占有しません。また、パケットが紛失した場合でも再送をする仕組みも持っているため、災害時など多くの人がデータのやり取りをする中でも、比較的繋がりやすいというわけです。ただし、データ回線を使った電話は再送が大量発生するような環境では、話がほとんどできないため、災害時などはデータ量が少ないテキストデータを使ったやり取りがおすすめとなります。
その他の選択肢
その他の選択肢はどういったものを表しているのかも見てみたいと思います。ただし、興味がある方以外は飛ばして大丈夫です。
0「通信経路上の機器を通信に必要な分だけ使えるように予約してパケットを送出」は、データ通信の話ではあるのですが、インターネット回線の話ではなく、企業や家庭内などの閉じられたネットワーク(LAN)の話となります。
おそらく皆さんは電話をかけるときも、動画を見るときも、Webページをときも同じ回線を利用していると思います。ただ、WEBページを見ているときに回線の帯域が足りなくなった場合、少し待てばいいだけですが、電話をかけたり、動画を見たりする時などは、電話が途切れたり、動画が頻繁に止まってしまう経験をされたことがあるかと思います。
この問題を解決するために、パケットに優先順位を予めつけておき、電話や動画などを優先的にデータ送受信をするといった設定をすることができます。
1「大量の回線を用意して大きなデータを一つにまとめたパケットを一度に送出」も、 企業や家庭内などの閉じられたネットワーク(LAN)の話となります。
パケットにはサイズ規定(MTU)が設定されており、規定サイズを超えたパケットは分割されてしまうのですが、ネットワーク機器によっては、ジャンボフレームと呼ばれる規定サイズより大きなパケットを取り扱えるものがあります。ただ、通信経路内にジャンボフレーム非対応の機器があると、送信できないため、ネットワーク機器がブラックボックスとなっているインターネット環境では取り扱うことができません。
ただしジャンボフレーム機能を利用するにしても音声データや動画データのような大きなデータは分割しないと送れないため、大きなデータを一つにまとめることは難しいと言えます。
4「一つの回線を占有して安定して相手との通信を確立」は、 固定電話の「回線交換方式」の話となります。
第一問 問1 ウ 解説
この問題は、「情報格差(デジタルデバイド)」について理解しているかを確認する問題となっています。
解答の説明
この問題では、震災時にインターネット上で情報が流れた際に、その情報を得られた人と得られなかった人の差はなにかを質問しています。
このようなインターネットの効果的な利用の一方で,今回の震災では,インター
問題文より引用
ネット上で震災に関する様々な情報が大量に流通したことによる情報の取捨選択
の必要や(省略)c情報格差の発生などの課題も生じたところである。このため,
インターネットの活用事例の収集・共有に当たっては,インターネット利用に関す
る課題についても併せて共有できるようにすることが望ましい。
情報格差(デジタルデバイド)は、情報技術で世の中が便利になる一方で様々な要因で情報技術の恩恵を受けられない人が発生し、世の中に適応できず格差が広がることを指しています。
原因は様々ですが、多くの場合、新たな技術を学習しやすい若者と学習が困難な中高年~高齢者の間の世代間格差で、デジタルデバイドが発生すると言われています。
世代間格差以外にも、貧困により情報機器の購入が困難であったり、身体障がいなどにより、機器の操作が難しかったりすることもデジタルデバイドの原因となるとされています。
その他の選択肢
0「機密性の違い」は、デジタルデバイドの原因ではなく、情報セキュリティの3要素の話となります。
情報セキュリティの3要素は「機密性(confidentiality)」「完全性(integrity)」「可用性(availability)」の3つで構成されており、英語表記の頭文字を取って「CIA」と表記されることもあります。
- 機密性…情報にアクセスできる人をしっかりと制限(管理)し、データを保護すること
- 完全性…データが意図せず追加、変更、削除されたりしておらず、完全な状態を保っていること
- 可用性…データが必要なときに、いつでも使える状態であること
1「情報の信憑性」も、デジタルデバイドの原因ではなく、情報とメディアの特徴の話となります。
ちなみに、情報の信憑性の確認する方法としては、「複数の情報源で調べる」「出典を確認する」「情報が古くないか日付を確認する」などが挙げられます。
2「季節の違い」もデジタルデバイドの原因とはなりません。四季のない国でもデジタルデバイドの問題は発生しています。
第一問 問1 エ 解説
この問題は「クラウドサービスの特徴を理解しているか」を確認する問題となっています。
解答の説明
この問題はホームページ・メールサービスの提供や避難所の運営支援ツールをインターネット上で利用できるサービス(クラウドサービス)として提供すること((SaaS(Software as a Service)の特徴を答える問題となっています。
まずクラウドサービスとしては、以下の3種類があります。

SaaS型のクラウドサービスはネットワークからアプリケーションまですべてまとめて提供されることから、インターネット接続環境さえあれば、サービスを利用することができます。従来型のシステム(オンプレミス)では、サーバーなどの機器を自分たちで構築、管理する必要があったため、機器の設置場所が被災してしまうとサービスが停止してしまうこともあり、それを回避するために地理的に距離の離れた場所に同じシステムを構築、管理することで、BCP対策・機器冗長化による可用性の確保を実施し、多くの費用がかかってしまうこともありました。
また、クラウドサービスはいつでも利用開始と利用停止が実施できることもメリットの一つであり、サービスが必要なくなれば、解約することで利用コストをオンプレミス型のシステムと比べて減らすことができます。
参考として、「アプリケーション」「ミドルウェア」「OS」「ハードウェア」「ネットワーク」のそれぞれの機能を下記にまとめております。

その他の選択肢
0「手元にデータをおいておけるため高い安心感を得られる」は、オンプレミス型の従来型システムの話です。クラウド型サービスの場合、データはクラウドサービス提供事業者のサービス上で管理することになります。
1「手元にある機材を追加して自由に拡張することができる」は、オンプレミス型の従来型のシステムやIaaS型のクラウドサービスの話です。オンプレミスのシステムの場合、手元にハードディスクなどのストレージ(機材)があれば、保存容量を自由に拡張することができますが、SaaS型のクラウドサービスの場合、サービス上で保存容量の拡張機能が提供されていない場合、追加することはできません。
近年、IaaS型のクラウドサービスの中にはオンプレミスのシステムとネットワーク接続し、利用者としては、オンプレ型システムかIaaS型システムか意識せずに利用できるサービスも出てきているため、IaaS型のクラウドサービスも不正解とは言えなくなってきています。
2「サーバーを接続するプロバイダを自由に選ぶことができる」は、オンプレ型の従来型システムの話です。クラウドサービスを利用する場合、インターネット接続環境はサービス利用者側で準備する必要があります。そのため、インターネット接続に必要なプロバイダーに関しては、クラウドサービスでは提供されません。
まとめ
今回、高校教科「情報」のセンター試験サンプル問題(大問1問1)だけを解説しましたが、問題を解くための内容を説明すると膨大な量になってしまうことから分割させていただきました。もし興味があれば次回の解説も見ていただきたいと思います。


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